アボリジニアート

オーストラリアのアウトバックを旅する旅行者達にとって、そこはまるで人を寄せ付けない不毛の大地に見えるに違いありません。しかし、オーストラリア先住民アボリジニ達はこの大陸で”狩猟採集”という人類の最も基本的なライフスタイルのまま大昔から(それは4万年とも5万年ともいわれていますが)暮らしてきたのです。

彼らは我々現代人の、常識では計り知れないような大地との密接なかかわりを持っています。そして読む.書くといった『文字』という伝達手段を持たなかったアボリジニ達は厳しい自然の中で暮らす貴重な知恵と情報を歌・踊り・そして『絵』によって次の世代へと確実に伝承していったのです。

私の専門であるアボリジナルアートは主に中央砂漠(アリススプリングス近郊の居住区)の点描画です。点と線だけで描かれる一見ただの抽象画にしか見えない作品も、実は砂漠で暮らす彼らにとって何よりも大事な水のありかを示す地図であったりまたは儀礼の際の約束事が描かれていたりと全ての内容が文字に変るビジュアルな言語なのです。ですから、一つ一つの作品に必ず何かしらの意味が含まれていると解釈できます。

そんな模様を画布も絵の具も持ち合わせない砂漠に住むアボリジニ達はもともと砂の上と自分達の身体の上にのみ、天然の岩絵の具や血液、それに動物の脂肪部分などを混ぜて指で描いていたのです。それが1971年(まだ30年前の話ですよ)イギリス人の美術教師の手ほどきのもとで現在のようなアクリル絵の具とキャンバスが使用されるようになったのでした。

真っ赤な赤土の中央砂漠のど真ん中で描いている無名の画家達は西洋美術などまるで知るはずがなく、それらの影響を全く受けていない独自の高い芸術性をもったとてもユニークな人々です。

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