連載40回目の記念すべき2004年2月号。よくもまあネタも尽きずにここまで続いたもんだとあらためて感激。それもこれもこれまで私に尽きることないネタを提供し続けてくれたアボリジニの皆様、そして「ああ、いつも読んでますよ。”裸のアーティスト”を、ドラゴンネットで」と応援してくださる読者の皆様のおかげゆえ今月も引き続き「愛と涙の東京物語 その3」がお送りできるわけである。深謝!

しかし・・そろそろ覚えてもらってもいいもんだわよね。「裸の・・」じゃなくて「裸足の・・」であるということを。それから「デンゴンネット」ってちゃんと言わないと鬼の編集長に叩きのめされるってこともね。

オーストラリア中央砂漠は世界でも最も水が少ないと言われる乾燥地域。普段そんな中で暮らすアボリジニはただでさえ貴重な水で”身体を隅から隅までピカピカに洗う”なんて発想は当然ながらあるわけない。そんな彼等も現在は居住区内で政府が提供している住宅で生活を営んでおりそこにはもちろんシャワーやトイレがきちんと設備されているのだが果たして彼等がそれらを毎日使用しているのかどうかは、はてさて?大きな疑問である。

アボリジニ村に滞在している間、私は頻繁に彼等の家に遊びに訪れるのであるがいきなりジロジロ他人様の家の中を見るのも失礼であるからにして遠慮しーしー奥ゆかしく体育の座り方をしてまずはじいいいっとしばらく様子をうかがうようにしている。ドアを開けた一番最初の8畳ぐらいの空間にはボロボロに破けたソファーがひっくり返っていることが多く、さっきまで確かに生きていたであろう牛の頭だけが部屋の隅にオブジェのように置かれている空間はなかなか見応えがあって興味深い。冷蔵庫にはたまに靴が入っていることもある。

「トイレ、貸して」と尋ねると一人の子供が私の手を引っ張って”バスルーム”らしきところへ案内をしてくれたことがあった。突然、床のぬめりですっころんだ。お尻は痛いし、周りは臭いしほんとにその場でおしっこちびりそうになったがとても目の前にあるベタベタの便器にしゃがむ勇気のない根性無しの私はそのままぐっと我慢した。おしっこも結構がまんが効くものである。そう、下っ腹に上手に力を入れて笑わないようにしてればいい、ただそれだけだ。

アボリジニ村で毎日シャワーを浴びる人々がいったいどれぐらいの確率でいるものなのか私の持つ乏しい情報では定かではないのであるが今回日本へはるばるやってきたトプシーとリネットは間違いなく”あまり浴びてない”人たちだったような気がする。

滞在した東京のウイークリーマンションでそんな彼女たちは毎日シャワーを浴びた。いや、浴びさせた。何といっても今回彼女達は展覧会の主役でありましてやテレビ出演まで果たす注目のスターになるのであるからにして身だしなみには細心の注意を払わなきゃ。まずは2人をお風呂場へ連れて行き指差し確認をしながら「赤い印の蛇口はお湯。青いほうは水。レッドはホット。ブルーはコールド。おーけー?」ってな感じで楽しく学習。

どういうわけだかいつも必ず水浸しになる洗面所を私は毎回大きなバスタオルでピカピカに拭いたものだった。心境はまるでお寺の廊下磨きをせっせと行う”一休さん”。

海外に長く住む日本人が帰国をする楽しみのひとつとして「温泉に入ってゆっくりのんびり」という声を聞くはずだが私も紛れも無くそのうちの1人である。ましてや今回砂漠のブッシュからやってきた特別ゲスト3人を何が何でも温泉に連れて行きたいと懇願していた私は友人に依頼して温泉調査をしてもらい、いよいよその願いが現実になる日が近づいた。目的地までの移動は新幹線。もちろんこちらもアボリジニご一行様にとっては初体験だ。予約を事前にしておかなかった私は緑の窓口で「普通車満席」との通告に一瞬ひるむ。・・・が、すぐに立ち直ってたちまちいつものカッコつけマンとなり「グ、グリーン車4枚お願いします」とクレジットカードを突き出した右手が震えていたのは絶対に気のせいだ。グリーン車なんて普段オレ様だって乗らないよ。すごいよ、まるで動く応接間だよ。一時間余りで現地に着いちゃうのなんてもったいないね、と貧乏性丸出し平民の私であった。そこで驚く無かれ、社内販売もタダだと思ったグラニス(同行したアートコーディネーター、オージー)はあれこもこれもと販売員のお姉ちゃんに指差しして抱えきれないほどの食べ物つかんで大笑い。「だって飛行機の中の食べ物はみんなタダだったじゃない」と真剣に私に訴えるかわいいおばちゃんももちろん日本の「温泉」は初体験。

温泉には心優しい友人夫妻、そしてこの滞在中ずっと同行取材をしてくれている友人カメラマンのタカさん、その仲間の中本くんがご一緒下さり総勢8名・1泊2日の忘れられない想い出の旅となった。

ファミリービジネスだろうと思われるアットホームな温泉宿のご主人たちは玄関先で快く我々を出迎えてくれたが身体のとても大きな色の黒い、しかもいきなり靴を履いたまま館内に入っていったトプシーとリネットを見て動揺を隠せない様子であったのを私は見逃さなかった。食事は特別に”肉をいっぱいで。肉なら何でも食べますから”と事前にリクエストを入れておき、おまけにお風呂も完全貸切家族風呂予約で我ながら万全の体制を取った・・・・(と思った。)

部屋割りは女性5人、男性3人。男らしい中性の私はどちらで寝ようか一瞬迷ったが取り合えず今日は広く快適な女性部屋へ。まずはじめに彼女たちの興味深々である浴衣を着せてはみたが2人の大きなお腹に帯の長さがとても足りないので適当にごまかし「びゅーてぃふる、わんだふる」を連発しほんとに見とれちゃうほど色っぽくなった3人としばらく大騒ぎしながらの大撮影会。そしてさあ温泉に来たらまずはお風呂でしょう、お風呂!と事前に彼女たちに日本のお風呂についてあれこれ説明を試みたがまるでわかってない様子。もちろん砂漠の民にとっては生まれて初めての「お風呂」体験である。一体何をどうすればいいのかさっぱり見当のつかない様子のトプシー・リネット。

よし、まずは私がどんな風にして入るのかをデモンストレーション。・・・したけど全然ダメ。2人ともモジモジしていてちっとも衣服を脱ごうとしない。困った私は「さあ。お脱ぎ。いい子ちゃんたち。何なら私が脱がしてあげようか。にひひひひ」と近づいたら「除雌gのr上スルン愚をでゅろもうええが覚えてろろろ」とまたしても彼女たちの言語・ルリチャ語で何か言われてしまったのだがそれがどうしても「おめー。おいらたちにこんな思いを味あわせやがって。砂漠に来たら覚えてろよな。」と私には聞こえてならなかった。

「何だい。いつも自分たちは砂漠の儀式でおっばいブルン、ブルン振り出して踊ってるくせにぃぃぃ」と私も負けずに抗議。結局彼女たちはバスタオルで身体中をぐるぐる巻いて湯船につかることまでは何とか出来たのだがお湯が熱すぎるとか何とか言ってわーわー狂ったように叫び、腰元までしゃがむのがもう精一杯。生まれて初めての温泉体験は何やらいまひとつだったようだ。

それじゃあ今度は食事はどうだといわんばかりに彼女たちを旅館の大広間に案内したところお膳一杯に並んでいる色とりどりのおかずに一体これらが食べ物なのかと不安気な表情でお互いの顔を見合わせているではないか。砂漠の民は魚をほとんど食べないのをご存知であろうか。そんな彼女たちのお膳にはあゆの塩焼きがギョロッと目玉をこちらに向けてのっかっていた。食べる真似だけ見せるリネットは「お腹が一杯」だと言って箸をつけない。私がアボリジニ村でよく使う手だ。採りたてのイモムシを目の前に出されたときに「お腹いっぱい」と必ず言っちゃったりなんかする。

東京のウイークリーマンションからエッコラ温泉まで担いできた彼女たちの大きなバックにはこんな事態のためにと予めパン・コーンフレーク・コンビーフ缶などの非常食を入れてきた。結局お膳の食事をほとんど残し部屋に帰ってそれはそれはうれしそうにコンビーフ缶を丸かじりするトプシーとリネットを私はとてもいとおしいと感じた。

来日以来、あんまり新しいことばかりの毎日にさすがに疲れも出たのであろう。夜は2人ともゴジラのようないびきをかいてさっさと就寝、いい夢見てね。グットナイト。