10年越しの思いであった念願のエミリー展が日本で開催され、しかも12万人という入場者を記録する等、予想を遥かに上回った今回の結果に、関係者一同はもう感無量。

オレ様だって嬉しさのあまり、祝杯を毎日毎日じゃんじゃかあげて、泥酔状態になっていたことは、いうまでもない。
二日酔いで死んだ人間がいるとはこれまで聞いたことがないが、死にそうになった人間というのは紛れもなくこのオレ様のことかもしれない。何しろ、苦しくて何も食えずにゲーゲー出す一方。そしたら体重一気に3キロ減。ダイエットには二日酔いがいいかもしれない。

しかしだ。

オレ様、酔っ払いながらも、ここでひと呼吸入れてちょっと真面目に考えてみたことがある。

確かに、エミリー展の結果は素晴らしかったといえよう。しかし、結果や成果のみが追求される現代の社会では、たとえその経過で絶大なる努力をしていたとしても、きちんとその「結果」を出さなければ、なかなか評価をされないものなのだということ。悲しいが事実だと思う。もしもエミリー展の入場者数が1万人であったならば、日本のメディアは同じようには取り上げなかったはずだ。

つまり、「結果」が伴わなければ周りは評価しない。そうなると、人間の根本的な欲求である「評価されたい」「認められたい」という欲求への不充足感を「結果」を出せないという事実から、常に抱き続けなければならないのだ。

すると、いつの間にかそれがストレスとなり、気付かぬうちにそのストレスに翻弄されて、些細なことでもクヨクヨしてしまっている自分がいるということを、オレ様は今回のエミリー展プロジェクトに携わって、一番強く感じたことだった。

何が体当たりしてこようが、何食わぬ顔で、もっとデーーーーーンと構えていられるだけの強い「こころ」を持っていられたら、どんなに人生楽チンだろうか…と願わずにはいられなかった。

アボリジニの人々と時間を共有するようになって、間もなく10年以上が経過する。
彼らこそ他人の目に惑わされることなく、実に“深くまっすぐに生きている人々”であるということに、いつも気付かされるオレ様だ。

彼らの社会には、「出世欲」もなければ「世間体」も存在しない。あるのは大いなる「食欲」と「性欲」だけだ。ほほぉ。何て人間らしいんだろう。
だから一緒にいて、オレ様はとてもとても気持ちが良いのだろう。何より自分が自分自身「ウチダマユミ」でいられるという解放感に、堂々と、どっぷりと漬かれるからだ。

メルボルンから飛行機で3時間。そして更に車で4時間半の道のりを、オレ様はこの“気持ちの良い人達”に会いたい一心で、毎度毎度通い続ける。
どこまでもひたすら続く真っ直ぐな道のりでの運転は、人間を実に素直にさせてくれるものだ。もしも目の前に片思いのトノガタがいたら、間違いなく告白していると思う。

灼熱の太陽がガンガンと照らす大地で、“素”のままの“ありのまま”のアボリジニの人達と一緒に過ごす時間はとても楽しい。
自分達が採った砂漠のご馳走、トカゲやイモムシを自慢しながら、わいわい騒ぐひと時はまさに至福の時だ。

自分で言うのもおこがましいが、オレ様はアボリジニの女性の儀式に参加を許された唯一の日本人でもある。上半身裸になり、電気も水もガスコンロもカラオケも何もない砂漠のど真ん中で、1週間彼らと生活を共にし、歌い踊る体験は、まさに「生きる」という生命力を身体いっぱいに叩き込まれることだった。

毎夜、汗と砂埃でなかなか寝付けなかったが、見上げる星空に輝く満点の星を一つ一つ数えて、「あれが全部白米だったら、茶碗何杯分のご飯になるんだろう…」と意識朦朧状態だったことは、まだ記憶に新しい。

こうした自分の体験談を、オレ様はこれまで日本のあちこちで講演してきたのだが、どうも現代の日本人の皆様には、今一つピンと来ないようで、あまりにも現実離れしすぎた話として受け止められることが多い。

しかし、どうだろうか。

日本で新しい携帯電話機種に殺到する人が、あれほどいるという現実。あれこそオレ様には信じがたい現象だ。モノや所有欲に支配されて、どこか「豊かさ」が狂っちまっているとしか思えてならない、今のニッポンそのものではないか。
生き方や幸せが、あまりにも周りに振り回されていやしないだろうか。すべて自分のことなのに…と、いつになくオレ様が、真面目にコメントしたくなったのには、きっと自分自身こそが「自分とは」を追求したくなったからなのだろう。

臭いトイレに膝まずいて、便器をしっかりつかまえながら、オレ様は真剣にそんなことを考える今日この頃であった。二日酔いになるのも、なかなか感慨深いものである。

ということで、オレ様は今後も更なる自分探しの旅に出発することに決めた。あてのない、果てしない旅になること間違いなしだが、その時その時に、たくさん笑っていられたらいいなと思っている。

それにはアボリジニの人々の存在なしでは、とても考えられないので、今後もオレ様は彼らとたくさんの時間を共有するつもりだ。

素晴らしい出会いに心から感謝。