私は周りの人々からよく「あなたって運の強い人間ね」と言われることがある。自分では特に意識をしているつもりはなくても「運」とか「縁」とか「ツキ」っていうのは必ず自らが招くものだと思われてならない。

それなのに私の場合、どうも「男運」をうまく招くことができない。いやはや「金運」もダメっぽい。

「ウマ年は強運の持ち主」なんていう本を、日本に住む姉から贈ってもらって熟読したことがあった。ウマ年はウマ年でも特に私の生まれた年「丙午(ひのえうま)」というのは、やたらと運気が強いらしい。それでもひと昔前までは丙午生まれの女は「亭主を食い殺す恐ろしい女」と言われ、なるべくその年には子どもを産まないようにと出産を控えていた時代まであったそうだが、亭主のいないオレ様はいったい誰を食い殺せばよいのだろうか、と小さな疑問を抱いてみたりする。 それでも断言していいのは、運の強い人間というのは非常に明るい人が多いということ。

いや、明るくしているからこそ運がどんどん寄ってくるのかもしれないと思うのだがいかがだろうか。

常に明るく、行動的な人生を送ることをモットーとしているオレ様ではあるが、ときには悲しみに明け暮れて目の幅涙を流すことだってあるし、誰にも会いたくないときなんて、大得意の”居留守”を使って自宅でじぃぃぃぃぃーーっとお地蔵様のように静かにしていることもしばしば。そんなときにたとえ「運」が舞い込んできたとしても、オレ様はきっと気づかずに不貞寝をしていることであろう。

しかしそんな落ち込みもオレ様の場合、実は3日で飽きてくる。クヨクヨしている時間が途端にもったいないと思えてくるのである。

そうなると3日間まるで何かの潜伏期間であったかのように家でじぃぃぃい――っと蓄えていたエネルギーを急に発散したくなり、この際ヨレヨレのトレーナーにスウェット姿でもまぁいっかーと外へ飛び出し、近所のごみ拾いをしてくれているような見知らぬおじちゃんを捕まえて一人勝手にベラベラとしゃべりまくる。おじちゃん、かなりいい迷惑だと思う。

運の強さといえば今年は特にそれを感じている。

日豪交流年ということが、もちろん大きな影響の一つではあると思っているが、日本のあっちからもこっちからもいったいどうしちゃったの? というぐらい「是非アボリジニアート展を」という申し出が舞い込んで来ており、嬉しい驚きを隠せない。

現に今は名古屋での展示会の真っ最中だ。1週間という短期間ではあるが、日本ではなかなかオリジナルの作品を観る機会のないアボリジニアートをぜひ一目鑑賞しようと、遠路はるばる足を運んでくださる皆様に心から感謝を申し上げたい。

この展示会ではアボリジニの講演会も予定されている。主催が大学であるだけに興味を持たれる学生さん達、みんな全員集合さ!!! オレ様、またエラそーーにアボリジニの講義を熱くやっちゃったりするんだもんね。

おまけに過日は名古屋から読売テレビとの打ち合わせに大阪へ出掛けたのであるが、これがまたなんと!!! 7月に行われるという読売テレビ主催の夏休みの大きなイベントにアボリジニアートを紹介し、そこへ砂漠の女王様たち、つまりアボリジニの画家を二人来日させて欲しいという依頼を受けたではないか。

ほほーー。読売テレビ様よ。いとも簡単にアボリジニを連れて来い…そうおっしゃいますがね。2年前、東京で行われたアボリジニアート展に来日させたときのアボリジニのおばちゃん達との「愛と涙の東京物語」を是非ともご一読いただきたい。2003年の年末から2004年にかけての伝言ネットにその滞在記事をたっぷりと掲載してますからね。

何しろ、普段テレビやインターネットで世界の情報をまったく入手しないアボリジニのおばちゃん達に「日本へ来るか?」と誘っても、当然「へ?日本ってどこだ?」ということになる。

「日本ってのはね。海の向こうにある私が生まれた国だ」と答えてもオーストラリア大陸のど真ん中、砂漠で暮らすアボリジニの民は海を一度も見たことがないので、それこそ何のこっちゃさっぱりわからない。

おまけに家族と離れて暮らしたことがない彼女たちを1週間以上も異国の地で生活させるということは、まるで単身で宇宙へ行って来いといわれているのと同じ感覚なのだから、極度のホームシックにかかるのも無理はない。情の厚い心優しいオレ様は、日本の自分の携帯電話から砂漠のアボリジニ村にたった1台だけあるオンボロ公衆電話に2~3日おきに電話をして、彼女たちの家族の声を聞かせて、そのたびに安心をさせたものだ。家族の中には嬉しくて泣いている者もいたという。後日届いた携帯電話代の請求書が、6ケタになっていたのを確認したオレ様も静かに泣いた。

日本滞在中の食事のことだって頭が痛い。アボリジニの女王様達、東京のオフィス街を歩けば「かんがるー。かんがるー」と辺りを鋭い目で見渡し(あれはまさに狩人の目だった!)、神社へ行けば境内にとまっていたハトを本気で口に入れようとしたり、六本木の焼肉屋では生でそのまま肉を食べた。ちゃんと焼いて食べるんだよ、と教えたら「腹が減って待ちきれない」と女王様。成田空港の入国審査では別室へ連れて行かれて持ち物検査。質問攻めに合い真っ青に。また、夜景があまりにもきれいだからと夜の観覧車に乗せたら、自分がこのまま月へ行ってしまうのではないかと思って号泣した…。赤坂のパチンコ屋に連れて行ったら思いのほか入ってしまって大騒ぎ。まったく運のいい人達だこと。

おお、そんな女王様達が再び日本へやってくるとは。今度は「愛と涙の大阪物語」が見事に展開されることだろう。

運気というものがもし貯金できるのであれば、7月までコツコツ貯めようではないか。そしてそれを砂漠からの特別ゲストたちのために思いっきり使いたいと願っている。