突然ですが、みなさまは「ジンクス」というものを信じますかね?

オレ様、普段の生活で宗教心はまったくない人間なのだが、この「ジンクス」となるものを結構信じちゃうタイプではある。

たとえば、洗車をしたら必ず雨が降る・・・なんてことはもー、日常茶飯事。つい先日だって、愛車カローラ様を1ヶ月ぶりに洗ったら、その翌日、見事豪雨に見舞われたという記憶は新しい。この渇水で水不足のメルボルン、そんなことが起こったゆえ、このジンクスはやはりホンモノだと痛感した次第。

私は仕事柄、1年の3分の1は豪州中央砂漠のアボリジニ村を訪れるのであるが、そこへ向かうときは絶対に地元「鹿島神宮」の交通安全お守りを持参する。

何しろ片道400キロもの未舗装道路を、時速110キロでぶっ飛ばして行くのだからね。きっと精神的なものなのだろうが、お守りは欠かせない。一人で運転するならまだしも、最近は同乗者がいるからなおさらの話である。

「みんな、あの世に行くときは一緒だからねー」と半分冗談、半分本気でオレ様は砂漠の大地を奔走する。

そんな矢先、一度だけうっかりお守りを忘れてしまって行ったことがあった。

まるでウソのような話に聞こえるだろうが、そのときオレ様は初めて砂漠で事故を起こしたのである。おまけに友人を二人乗せていただけに、そのときの罪悪感といったらなかったね。ハンドルを急に取られ、気が付くと車は3回転ぐるぐるし、挙句の果てには、周りにうっそうと生えていた木々を4本見事に切り倒した。

ここまでくるともう映画の世界。同乗者たちは半べそ状態だった。もちろん普段は男オンナの勇ましいオレ様も、予期せぬアクシデントにはさすがに動揺を隠せず、足がガクガク震えたものだった。

070401.jpg

それ以来、砂漠へ出かけるときには「鹿嶋神宮」のお守りを肌身離さず持っている。

実はこのお守り、これこそは毎年元旦に我が父親が自ら「鹿嶋神宮」へ足を運んで、海外で暮らすオレ様のために購入して送ってくれる意味ありのものだ。

通常新年が明けて3日目ぐらいにメルボルンの自宅ポストに送られてくるものなのだが、今年に限ってはどういうわけだか、封筒がいつもよりも少し分厚かったので「はて? 交通安全のお守り以外に何が入っているんだろうか? まさかこの歳にして今さらお年玉というわけではあるまいな」と開けてみると、何とそこには赤い「縁結び」のお守りが丁寧に、しかもちり紙に包まれて入っていた。

お父ちゃん。彼は本気だ。

未だに嫁入りのご縁をちょうだいしないオレ様のことを心底哀れんでいるようだ。

「お父ちゃん。オレ様、まだ嫁入り諦めたわけではないからな。今はただ、嫁に行くことよりももっと熱くなれるモノに出会ってしまって、それに夢中になってるだけなんだ。心配すんなよ。大丈夫だ!」。そんなことを砂漠を走る車中で、ハンドルにぶら下げたゆらゆら揺れるお守りを眺めながら思う。

070402.jpg

オレ様の人生にこのアボリジニアートが登場し、豪州先住民との密なる付き合いが始まってもう、かれこれ14年の月日が経つのであるが、我が父親、未だ私がメルボルンで何をやっているのかよくわかっていないようなところがある。

その父親、18世紀の生まれです。もちろん嘘です。余談であるが歳のわりには料理が得意で、味噌汁なんて作らせたら天下逸品である。

メルボルンにはまだ一度しか来たことがない我が両親。根っからの田舎暮らしのため、海外旅行なんぞはもうそれこそ宇宙に行く気分。大変な騒ぎである。

そんな我が両親にオレ様のメルボルンでの暮らしぶりが、何と日本のお茶の間で紹介されることになった。4月上旬の放映、新番組でしかも全国放送だというではないか。

オレ様、これまでも何度か日本のメディアには登場させていただく機会には恵まれたが、その度に我が両親、親戚近所、小学校中学校の担任の先生、同級生一同に「家の娘がテレビに出っからね。観てくださいよー」と片っ端から電話を入れるらしい。

そして実際にお茶の間でオンエアされた映像。オレ様が大口あんぐり開けて採れたてのイモムシをアボリジニたちと共に食べるシーンに両親は「おお、我が娘よ。お前があのままスチュワーデスを続けていたら、今頃はプロ野球選手の嫁さんになってニューヨーク暮らしも夢じゃなかったかもしれないのに。

その娘がなぜ、オーストラリアの砂漠のど真ん中でイモムシをこんなにうまそうに食っているのか、ワシらは不思議でたまらない」と、涙ぐむらしい。まあ、これも我が人生。よいではないか。

というわけで、突然決定した今回のこのテレビ出演。

この原稿を書き終えた3日後に、オレ様は砂漠へと再び旅立つ。撮影期間はたったの2日間。テレビ撮影隊のみなさま、オーストラリアってーところはね、バカでかいんですよ。日本と距離がはるかに違うってーことをご存知なんですか。オレ様は鼻の穴を大きく開いてそう言いたいね。

このたった2日間という殺人的なスケジュールを考えただけでも、オレ様半分死人状態である。

おまけに「時間」という概念のまったくないアボリジニの女王様達と、やれいつ何時に狩に行くーだの、こうしてああしてといったリクエストが思う通りに利かない、ということは十分理解していただきたいと担当のディレクターには事前に電話でお話しておいた。

それより何より、数日前からアリススプリングスが集中豪雨に見舞われて川が氾濫し、街中水浸しになっているという情報をゲット。

ますます気分は死人状態。水はけが悪い道路400キロを走る自信はさすがのオレ様もあまりない。今度こそ本当にみんな「あの世行き」かもしれないぞ。

「鹿嶋神宮」のお守り、決して忘れてはなるまい。

そして赤い「縁結び」のお守りもそうーーとポケットに忍ばせて行こう。もしかすると砂漠のど真ん中で満点の星空を眺めながら“何か”が起こるかもしれないからね。

070403.jpg

そんなオレ様の恋の予感、これまで一度も当たった試しはない。したがって来年も父親から今度は違う色の「縁結び」お守りが贈られてくることはすでに確証済みだ。