人間の知恵ではどうすることもできないとても不思議なもの…それが「運」だとオレ様はいつも思っている。
「あなたは強運の持ち主です」と以前ある占い師から言われて、意味もなく有頂天になったことがあったが、それでも自分が「不運」だと思うことも時折ある。

不運だと思う時なんてのは、ものすごく落ち込むし、この世からもうさっさとおさらばしたいとすら思ったりする。そんな時は、とびきりおいいものをたらふく食べて一時の満足感を覚えるとか、家のローンの残高も省みずにパーーーッとお金を使っちゃうとか、いろいろと方法はあるのだが、それが心から満たされていないと感じる時には、単なる消化不良を覚えるだけである。
オレ様、そんなときはかえってより一層虚しくなる。
運が良いとか悪いというのは努力次第、本人の気持ち次第、つまり非常にメンタルな部分に近いものだという人がよくいるが、「運」というのは、オレ様にはそれよりももっと大きなもの、すなわち超常的なものだと思えてならない。

ひとつの例を挙げよう。

オレ様の現在の一番の活動内容、いわゆるライフワークなるものは、豪州先住民、アボリジニの人達の稀にみるユニークな芸術の日本における啓発なのだが、そうは言っても、まだまだ認知度の高くないアボリジニアートを、日本ですんなり受け入れてくださる方はそう多くないのが実情だ。つまり啓発にはやたらと時間がかかるということである。

それでも続けることに意義アリと勝手に独自の哲学を持つオレ様は、これまで一度もギブアップしようと考えたことはなく、それどころか自分自身が益々アボリジニの人達に惹かれていく現実、そして必ずや多くの人達に価値を認めてもらえるといった変な自信すら覚えてきたものだった。

オレ様は現在1年に2~3度のペースでアボリジニアートの企画展を行っており、今年も6月に10日間ほど東京の「ギャラリー上原」で開催した。
今年で4年目となったこのアボリジニアート展も、今ではすっかりこのギャラリーでの恒例の展示会となり、1年に1度だけ東京で開催するこの展覧会には、毎年遠方からもはるばると、たくさんのお客様が押し寄せて来る。

しかしながら、皆様ご存知の通り、昨年からの世界的な経済危機によって「美術品は売れないよ。何たって嗜好品(贅沢品)だからね」と、展覧会の開催前には、周りの友人知人達から随分と警告を受けていた。
ギャラリーのオーナーですら「内田さん、うちのギャラリーで、今年は絵が全く動いていません。コレクター達がさっぱりギャラリーに足を運ばないんです」とぼやいているほどだった。

しかしながら、オレ様はどういうわけだか心配はひとつもなかった。それどころか、根拠なき自信のようなものが身体中をみなぎっていたほどだ。

というのも、企画展開催に向けてメルボルンから日本へ出発する飛行機の座席が、どういうわけだかワンランクアップグレードされた。「ひゃ~!ラッキー」とただ無邪気に喜ぶには大きすぎる、とても快適なフライトとなった。

そして日本に到着した日は、オレ様の43歳の誕生日の前日だった。せっかくのバースデー。どこかで楽しく過ごせやしないかと以前から気になっていた宿をインターネットで申し込んでいた。そこはとびきり人気のある宿らしく「抽選で10名様限り!」と書かれていたので、実はあまり期待をしていなかったのだが、到着するやいなや「おめでとうございます。当選しました」との電話をもらった。しかも価格は「景気に負けるなキャンペーン!」とやらで、インターネット表示価格を思いっきり無視して、な、なんとたったの¥500だったのである。

東京都心ではアイスコーヒー1杯も飲めない価格だ。それが1泊¥500でしかも2食付き。
ここまでツイていると少し怖くもなった。何だかオレ様には今、目に見えない力が宿っているのでは?と思えてならなかったからだ。この先、すべてがバラ色一色のようになる気がはっきりとしたのだから。

案の定、不況、不況、絶対売れないと言われ続けた今年のアボリジニアート展は、まわりの懸念に大いに反して、すこぶる良好な売り上げであった。連日、ギャラリーはたくさんのお客様で大賑わいだったのだ。
というのも、ただでさえ元気のない今の世の中。オーストラリアの広大なる大地から生まれたエネルギーいっぱいのアボリジニアートで、たくさんのパワーをもらいたいという人々の願いが、うまく販売に繋がったというわけだ。
この運気、どうせなら長期の定期で貯金できやしないものかと真剣に考えるが、いかがなものだろうか。

さてさて。全くの余談で恐縮なのだが、19歳になるオレ様の甥っ子が、今年めでたく「日本相撲協会」に入門し、現在、序二段として懸命に日々の稽古に励んでいる。
50以上もある部屋から彼は「錦戸部屋」を自分で選んだ。錦戸親方といえば、オレ様の同郷、茨城県水戸市出身。元「水戸泉関」として人気を誇った関取である。その親方が、実は大の絵画ファンだというではないか。何やらご自身が現役を引退された後、真剣にフランスへ絵画留学へ行こうとまで考えられたらしい。

まだご覧になったことがないというアボリジニアート展へ、ぜひお越しいただきたいと招待状をお送りしたところ…開催2日目、早々に会場へお越しくださった。
身長190センチの大柄な親方がギャラリーに入って来られるやいなや、その場に居合わせた他のお客様が「わぁ~~っ!」と歓声を上げ、次々に携帯のカメラで親方を撮影し始める。日曜日だったことから家族連れのお客様も多く、ギャラリーは大賑わいであった。
しかも親方は、新弟子である私の甥っ子までギャラリーにお連れくださったのだった。ああ・・・おばちゃん、大感激。

何しろ甥っ子が相撲界に入門すると決めて以来、携帯電話は禁止だし、最低1年間は自宅に帰ることも許されず、毎日厳しい稽古と「ちゃんこ当番」だと聞かされていたもんだから、久しぶりに会う甥っ子の姿に、ただ、ただ感激するばかりだったのだ。「少し、痩せたね」と甥っ子にそうっと問い掛けたが、親方の前では、きっと私語も慎まなければならなかったのか、彼はオレ様に深々と一礼するだけだった。思い起こせば、ついこの間までゲームに夢中だった高校生の彼が、今や力士として人生の立派な学習を自ら行っている現実を、大いに評価したいと心からそう思った。

運の神様へ。
さっきのオレ様の運の貯金を、ぜひこの甥っ子に分けておくんなさいませ。
いつの日か彼が横綱の座を射止めた際には、オレ様の老後の面倒もきっと見てくれるはずだから。
未知なる彼の将来に大いに期待したい。