“千客万来”とは何とも嬉しい悲鳴であるが、ここ最近次から次へと我が家へ訪れてくるちょっと…いや大分ユニークなゲストたちを今回改めてご紹介したいと思う。

辺境地帯からやってきたその特別ゲストたちは肌の色が黒い、英語がよく通じない、自分の年齢をあまり把握していない、お風呂に入らない、カンガルーは生肉が最高! と確信し、おまけに牛の脳みそがあればもっと最高!!! と絶賛する楽しい人たち。

その辺境地帯とは豪州中央砂漠のど真ん中。一番近い街まで車でざっと450kmはある。そこにある小さな居住区に住む先住民アボリジニたちの描く絵画が、今や巷では大きな注目を集めているのをご存知だろうか。

それに伴ってシドニーやメルボルンなどの都市で頻繁にアボリジニアートの個展が開かれたりしているのだ。先日も、とあるメルボルンのアートギャラリーで行われた展覧会に招かれたアボリジニの画家たちが、それぞれ居住区の家族にしばしの別れを告げ遠方からはるばるやってきたのである。

4人のそれはそれはゴージャスな女王様たちのメルボルンでの滞在先は、これまたどういうわけだか我が家であった。展覧会を主催したギャラリーのオーナーは取りあえず長期滞在用のアパートを彼女たちのために用意してあったようだが、女王様たちは誰もそこに泊まりたがらず(今まで一度もそんなところへは滞在したことがないので恐ろしすぎると断固拒否!)、当然のようにみな我が家へそれぞれ自分のカバンをエッコラエッコラ抱えて到着。

有無もいわさず我が家へやってきてくれたという彼女たちからの厚い信頼は、大いに喜ばしいことだ。それにこれまでにも幾度かアボリジニの友人を我が家に泊めた経験はあるから問題もないだろう。4人の大所帯だってへっちゃらへっちゃら。こうなりゃどっからでもかかってこーい!

我が家は一応3つのベットルームがあるのだが、一つは自分の寝室でもう一つはゲスト用の小さな寝室。あとはアボリジニの絵画があっちこっちに散らばっている私の勉強部屋。←勉強しないけどそう呼んでいる怪しい部屋。ベッドは置いていない。誰がどこに寝るかはあとで決めよう。というか当然早い者勝ちになることは絶対に間違いない。

そんなこんなで家主の私を含めて計5人の共同生活が瞬く間にスタートしたものの、普段気ままな一人暮らしを存分に謳歌しているこの私に、いきなり砂漠の辺境地帯からやってきた4人の女王様たちのホストママになるという任務は、とてつもなく大きいということが、彼女たちの到着2時間以内にすでに判明。

家に置いてあるすべてのものにまずは興味深々。電気ドライヤーをブンブンならして熱風を顔や髪に充てて騒ぎまくる女王様たち。あっという間にヒューズが飛んでそのドライヤーはあの世へ逝った。

そして私の怪しい勉強部屋へ行っては素早くパソコンを見つけ、インターネット電話に瞬く間に釘付け。たまたま日本からかけてきた友人とネット上の電話で楽しくおしゃべり。もちろん言語はアボリジニ語だ。「パリャ? ユーア? ウイーヤ。ウイーヤ」。電話の向こうで慌てふためく友人が「ねえ、ねえ、ちょっと。そっちで一体何が起こってんのよ。大丈夫なの?」と心配する。

友人よ、すまぬがどうかしばらく放って置いて欲しい。

女王様たち、珍しいもので遊びつかれたら、今度は腹が減ったと家の中をあっちへウロウロこっちへウロウロ。飼っている2匹の猫たちに彼女たちの目が一瞬でもいった時にはさすがにドキリ。食べられる前に外へ放してやった。

そろそろ夜も更けてきて寝る時間になったが、みんなテレビに夢中でかじりついていて誰一人リビングルームから動こうとはしなかった。ホストママは一日目にしてさすがに疲労困憊したのでサッサと自分の寝室へもぐり込み、いつものように大の字になって一人深い眠りに就いた。この際家中の電気が付けっぱなしであろうが、水道が出しっぱなしで水浸しになっていようが、猫が食べられていようが、もうそんなことはどうでもいいと思えるほど完全に疲れきっていた。…おやすみなさい…。

ところが、真夜中…。ものすごいにおいといびきでハッ!! と目を覚ます。一度寝たら絶対に起きることのないこの私が目を覚ましたのだ。一体何が起こったのか。

確かに一人で寝たはずの私のベットに、大きな身体の色の黒い物体がぎゅうぎゅうになって2人も寄り添っているではないか。いびきもすごいが彼女たちの体臭もすごい。どことなく昔嗅いだ鉄棒のにおいに似ていた。私は身体を硬直させそのまま朝を迎えることに。だって身動きが全くできなかったんだもの。

そして翌朝、一緒に寝ていた女王様たちに理由(わけ)を聞くと「ゆー、ろんりー。ゆー、ろんりー」とカタコトの英語でそればかり。直訳すれば「ちょいとオマエさん。一人で寝るのはあまりにも寂しいじゃないの。かわいそうだからあたいたちが一緒に寝てやったのさ」とまあ、こういうことになるようだ。

そう。そうなのだ。アボリジニ社会では女性は特に決して一人では行動しないし、一軒の家に単独で暮らすことなんてまず考えられないという。ましてや、たった一人で毎晩眠るとはいったい何事だと女王様たちは私に説教までしてきた。

そりゃあ私だって何も好き好んでこの歳まで嫁にも行かず、一人フラフラしているわけじゃないのよね。まして独りでいることが”孤独”だという概念が自分にちっともないからしょーもないんだろうけど。

でもこうやってそんな自分のことを心配してくれて、さみしいんじゃないかと一緒に寝てくれる優しい女王様たちは、やはり私のかけがえのない大事な仲間。一緒に居て最高に心地が良いと感じることのできる大切な友人。

人生も40年近く生きていると何を『豊か』といい、何を『貧しい』と判断するのか。それは時代によって、自分の心によって、変わっていくものなのだろうと確信している。が、今後も自分にとっての豊かな人生とは何なのかをアボリジニの女王様たちと関わりながらじっくり考えていきたいと思っている。毎日の忙しい日常の中に、ほんの少しでも穏やかな時間を生み出す努力をしていきたい。